2024年7月末に、オンラインカジノの決済代行業者が逮捕された事件は記憶に新しい。
オンラインカジノの決済代行をとりしきっていた業者の逮捕は、2023年9月のケースに続いて二度目である。
また、これは決済代行業者の逮捕ではないが、山口県の給付金誤送金事件の際には、決済代行の複数の業者が差し押さえを受け入れて、オンラインカジノに使い込まれた給付金を自主的に返還した、という2022年のケースも思い出す必要があるだろう。
この山口県のケースは、2022年の段階では、まだオンラインカジノの決済代行は、違法でもなくましてや逮捕の対象ではなかったのだろうか、と考えさせられることもあって重要だ。
あれから2年経過し、警察は「客にオンラインカジノで金を賭けさせた」という理由で決済代行業者を逮捕するまでに態度を変えている。いまや、オンラインカジノの決済代行は違法として扱われるタームに突入しているのである。
警察はなぜ、2022年の段階から摘発が可能だった決済代行業者の違法性を重要視し、決済代行業者を狙うようになったのか?
そして、違法のプレイヤーではなく違法の決済代行業者を叩く目的とは何なのか?
今回は、最新の決済代行業者の逮捕劇を入り口にして、こんなことを考えてみたい。
オンラインカジノ自体を叩くことができずプレイヤーの逮捕には意味がない
決済代行が狙われるようになった背景を考えていくうえで、これまで警視庁が違法なオンラインカジノを摘発していくにあたって「悩みのタネ」であった部分を考えてみたい。
その「悩みのタネ」というのは、「オンラインカジノ自体を違法だといって検挙することができず、プレイヤーの逮捕にはほかのプレイヤーへの見せしめ以上の意味がない」というものだ。
つまり、「オンラインカジノに対しては根本的な解決ができない」というのが、警視庁の長らくの悩みであり、オンラインカジノの違法性に対する足踏みだったということだ。
オンラインカジノという存在が違法であるのは、国内の刑法が適応される限りにおいてである。
その点において、オンラインカジノは海外に運営拠点を置いていることが理由で、国内の刑法を適応することができず、賭博場開帳等図利罪による逮捕ができない。
賭博場開帳等図利罪をオンラインカジノに適応させて「違法である」と認定するためには、オンラインカジノの運営拠点が日本国内である必要がある。
なお、オンラインカジノとは完全に別物である「インターネットカジノ(通称インカジ)」が摘発されるのは、国内に運営拠点があるばかりでなく「実店舗」さえあるためである。
インカジの場合はダイレクトに違法扱いできるし、店舗があるために摘発も簡単だし、胴元から叩くという「根本的な解決」も可能となっている。
オンラインカジノには実店舗がなく、国内の刑法が使えないうえに、さらに悪いことにインターネット空間にある賭場には「ガサ入れ」もできない。
賭博罪が適応できる日本国内プレイヤーしか逮捕できないという思い込み
オンラインカジノが「胴元が叩かれない違法ギャンブル」として大手を振ってしまえる以上、これまで、警察が逮捕できると思い込んでいたのは「賭博罪」で違法扱いできる日本国内のプレイヤーに限られていた。
しかし、日本国内で違法のギャンブルであるオンラインカジノで遊んでいる違法プレイヤーを逮捕することは、ほとんど「焼け石に水」のようなもので、オンラインカジノそれ自体への対策にはなりえない。
日本国籍を持っている人間が日本国内でオンラインカジノを遊ぶことが明らかに違法であるにも関わらず、プレイヤー側の逮捕の事例が極端に少ないのは「それをいくらしたところで無意味」ということを警察も理解しているためだろう。
それでも時折、少数のオンラインカジノのプレイヤーが違法行為を裁かれ、逮捕の憂き目にあうのは「オンラインカジノっていう違法ギャンブルで遊んでると、たまにこういうこともあるよ」ってことを、多くのオンラインカジノのユーザーに知らしめる目的のためであって、「見せしめ」でしかない。
この「見せしめ」がオンラインカジノという本丸にどれほど打撃を与えているかというと、正直なところ「ノーダメージ」だろう。
むしろ、オンラインカジノの運営側にしてみたら、プレイヤーの逮捕という些末事は「自分たちはつねに海外の安全圏にいて、危険なのは日本のプレイヤーだけだ」という安心感を獲得する契機にしかならないというのが実情ではないだろうか。
決済代行の業者を逮捕するという第三の道の発見
そこで警視庁が眼をつけたのが「決済代行業者の逮捕」という第三の道である。
この第三の道こそが「オンラインカジノ本体にはダメージを与えることができず、違法のプレイヤーの逮捕は無意味」という停滞を呼び込むばかりの思い込みを抜ける抜け道だったのだ。
あたりまえの話だが、オンラインカジノが海外拠点のギャンブルである以上、海外運営のオンラインカジノは収益のために、日本人プレイヤーは遊ぶために、「日本円」を海外で使える何かしらの通貨に換える必要がある。
決済代行業者というのは、このオンラインカジノ側とプレイヤー側のそれぞれのニーズを満たすためのパイプのような存在であり「日本人がオンラインカジノで遊ぶ/オンラインカジノを日本人に遊ばせる」ためには、この中間的な業者の存在が必要不可欠となる。
決済代行業者が、オンラインカジノの日本での運営を可能にする必要不可欠な要素であるならば、その要素を取り除いてしまえばいい。そうすれば、遊ぶことも遊ばせることもできなくなる。
これが、警視庁が見つけた「第三の道」なのだ。むしろ、これほど簡単な解決策を警視庁が見逃していたことが不思議なくらいである。その見過ごしには「運営は叩けないし利用者の逮捕は無意味」という思い込みが作用していたのはまず間違いないだろう。
決済代行業者を違法とし、逮捕の対象とすることは「オンラインカジノを根本から叩く」という警視庁の目的からすると、間接的ではあれこれまでのダメージとは比較にならないダメージを与えることができる方法だ。
決済代行業者の逮捕は、末端の違法プレイヤーを逮捕するのと違って「無意味」ではなく、目的に即してもいるし効果的なのである。
見逃されていた決済代行業者が逮捕される状況の変化
冒頭に書いたように、2022年の段階では決済代行業者は「差し押さえ」の対象となって、自主的に「使い込まれた給付金」と同額の金を返還することで、警視庁から見逃されていた対象であった。
当時、それが見逃されていたのは、2022年の給付金使い込み事件の勘所が「給付金を使い込んだ無職」に向けられていたためで、「オンラインカジノの違法性」には注目が集まっていなかったためだと考えられる。
2022年の事件では「電子計算機使用詐欺罪」をいかに裁くかが焦点にあり、そもそも賭博罪としての裁判ではなかったのだ。
オンラインカジノの明らかな違法性が取りざたされるようになり、厳罰化の傾向を見せるのは「2023年の下半期以降」を待たなければならない。これは、俺だけの私見ではなく、オンラインカジノをウォッチしている人間ならだれもが同意する事実だろう。
2023年の決済代行業者の逮捕が象徴的なのは、ちょうどこの厳罰化の時期と対応しているからである。
起訴内容自体は「常習賭博罪」であったが、この決済代行業者は、のちに「組織犯罪処罰法違反」という罪状で再逮捕されている。
このように、決済代行業者の検挙というのは、日本国内に運営拠点があるならば、賭博罪だけでなく幇助罪や組織犯罪処罰法違反などの「ほかの罪状」でも日本の国内で通用する警報を使えるところに利点がある。
「オンラインカジノを叩けないのであれば、その連絡通路を断てばいい」という警察の判断はおそらく正しい。そして、その連絡通路を断つための罪状が賭博罪に限られないというのも、決済代行業者を叩く上での強みなのだろう。
決済代行業者の逮捕にともなう違法のプレイヤーの「ついで」の書類送検が少ないのは、考えてみるまでもなく当然である。
それが当然なのは、結局のところ「プレイヤーの逮捕」ということが警視庁にとって「オンラインカジノ本体を叩く」という目的においてはほぼ無意味であるためで、その意味のなさが、決済代行業者の違法性を摘発する現在の段階においても変わっていないためだ。
これはもちろん「プレイヤーは安全だ」ということを意味しないのではあるし、逮捕の対象であることは揺るがないということは忘れてはいけないのだが。
警察が決済代行業者を狙う理由のまとめ
- オンラインカジノは摘発できずプレイヤーの逮捕は無意味である
- 決済代行業者を潰せば遊ぶことも遊ばせることもできなくなる
- 国内の決済代行業者は検挙しやすく賭博罪以外も適応できる
警察がオンラインカジノの決済代行業者を狙うようになったことから見えてくる理由のまとめは以上となる。
複雑にからみあって解決不能と思われているものも、目の前に当たり前にあるようなものが解決策で、そこを紐解くとスルスルとすべてが解体していく、というのはミステリーや人生の諸問題でもよくあることだ。
オンラインカジノにとっては、その「紐の結び目」ともいえる場所が、決済代行業者ということなのだろう。
決済代行業者の逮捕が、オンラインカジノ本体にどれほどのダメージを与えるのかについては、まだ明確な答えは出ていないが、少なくともプレイヤーの逮捕よりは効果的であることは間違いない。
違法な決済代行業者の摘発は、オンラインカジノを日本国内から撤退させていくための大きな一手であり、今後も検挙が続いていくことが予想される。